2009年10月24日土曜日

押尾、空白の3時間に隠蔽工作

 合成麻薬MDMAを使用したとして麻薬取締法違反罪に問われた俳優、押尾学被告(31)の初公判が23日、東京地裁で開かれた。


 東京・六本木のマンション一室で死亡した田中香織さんが、異変を起こしてから通報まで時間がかかった“空白の3時間”について、押尾被告が自身のMDMAの使用を“隠蔽(いんぺい)”をしようとしたことが分かった。


 供述調書によると、押尾被告は田中さんの容体が急変した後、知人男性を呼んで同マンションの別室に移動し、「MDMAを抜く方法はないかと聞いた」。そ の理由は「発覚が怖く、尿からMDMAの成分が出ることは知っていた。いずれ警察に行ってばれてしまう」からだという。


 また、弁護側による被告人質問では、8月31日の保釈後、東京・多摩市内の自宅で、警視庁の捜査担当者から田中さんが死亡したことについて、「ほとんど 毎日調べられた。3回ほど、六本木ヒルズで捜査に立ち会った」と任意聴取されていたことを証言。警視庁が、保護責任者遺棄致死容疑での立件に向け、捜査し ていることを裏付けた。




本件とは,直接関係はないが,
薬物中毒を起こした者を遺棄して
結局,死亡に至らしめた者の刑事責任が問題となった事例で,
以下のものがある。

札幌地方裁判所刑事第三部
昭和61年4月11日

判示の罪となるべき事実は,以下の通り。
A(当時一三歳)に覚せい剤を注射したうえで同女と性交渉を持とうと考え、同女を伴って、同日午後一一時ころ前記ホテルの二〇三号室に入り、同室 内において、午後一一時一〇分ころ前記第一の四のとおり同女の左腕部の血管内に覚せい剤約〇・〇四グラムを含有する水溶液約〇・二五立方センチメートルを 注射したところ、午後一一時四〇分ころ、同女が頭痛、胸苦しさ及び吐き気等の症状を訴え始め、翌八日午前零時五分ころには更に強く同症状を訴えるようにな り、午前零時二五分ころになると被告人の問い掛けに対して正常な応答ができなくなり、ベッドに寝かせてもすぐふらふらと立ち上がることを繰り返すなどその 言動にもそれまで以上に異常な点を現し始め、午前一時ころからは「熱くて死にそうだ。」などと言いながら着衣を脱ぎ捨てたり、風呂に入ると言いながら二階 にある同室の窓を風呂のドアと間違えて開き、外に飛び出そうとしたり、全裸のまま陰部を被告人に向けて卑猥な言葉を口にするなど覚せい剤による幻覚症状と みられる顕著な錯乱状態を呈するに至り,午前一時四〇分ころには全裸でうつぶせに倒れたままうめき声をあげるなど、肉体的精神的健康を急速に失い、独力で は正常な起居動作等をなしえないほどの重篤状態に陥ったが、その原因は、甲、乙らが、前日、被告人から譲り受けた覚せい剤を同女にそれぞれ注射した旨を同 人らから聞いていたのに加えて、更に被告人においても判示第一の四の事実を含め短時間に二度にわたり多量の覚せい剤を注射したことによるものであると認識 していたのであるから、医師による専門的診察・治療を受けさせるなどして同女の生命身体の安全のために必要な保護をなすべきであったにもかかわらず、医師 の診察・治療等を求めず、またホテル従業員に同女の重篤状態を知らせることもせず、同女を同室内に放置したまま、同日午前二時一五分ころ同室から立ち去 り、もって扶助を要すべき病者である同女を遺棄したものである。

ポイントは,
Aが,扶助を要する病者に当たるか,
被告人が,保護責任者に当たるか
立ち去る行為が「遺棄」に該当するか
遺棄と死亡との間に因果関係があるかだ。

法的な意味での責任を認めるためには,
立ち去ることにより,
被害者の生命身体に危険を及ぼす状態であったのか。
またその危険をコントロールできるのが
唯一,被告人であったのか,
因果関係(致死の結果についての責任)の有無については
遺棄の段階で,救命の可能性があったかどうかである。

ちなみに
この事件では札幌地裁は
保護責任者遺棄罪を認めたものの
致死の結果については因果関係を認めなかったが,
控訴審上告審とも因果関係を認めている。